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Asmat Sago Ball
アジア・オセアニ地域を代表する、世界的なプリミティブ・アートの最高峰。インドネシア最東端に位置するパプア州(旧イリアンジャヤ・西部ニューギニア)のアスマット(Asmat)地方で製作される彫刻は、ニューヨークのメトロポリンタン美術館にアスマット特別コーナーが特設されるように、グローバルな評価を得ています。日本ではまだまだ馴染みのない「Primitive Arts」も、欧米のコレクターの間では、彫刻オブジェの最後の一品として『いつかはアスマット彫刻を手に入れたい』と言われるまでに高い人気を誇っています。インドネシア文化宮(GBI)は、アスマットの中心地アガッツ(Agats)村で開催される「アスマット芸術祭(Pesta Budaya Asmat)」のオークションに参加し、厳選されたハイレベルのパトゥン(彫刻像)を収集してきていますが、今回、その中からサゴ椰子皿(Sago Ball)彫刻を中心に紹介します。
写真のサゴ椰子皿は通常サゴ・ボールと呼ばれ、アスマット人の主食であるサゴ椰子澱粉を調理するための器です。同時に調理済みのサゴ澱粉だんごの置き皿にもなります。サゴ・ボールは、戦闘楯やビスポール(祖霊像)と並んで、アスマットの代表的原始美術の一つです。地元のフメリピッツ(風の人)神話が伝えるように、人間を“木から生まれて木に還る”と信じているアスマット人は、広大な湿地帯のジャングルの中で樹木と共生してきました。木こそが全ての源なのです。移動のためのカヌー、そしてオール。住居は勿論のこと、戦闘用の楯と槍、そして調理用具と、身の回りにある全ての道具を木から生み出してきました。そしてアスマット彫刻の最大の特色が、あらゆる彫刻に刻まれている人物像です。“木に還る”という言葉通り、彫刻に彫られている人物はみな故人です。生きている人は彫刻にはなりません。なぜならば、まだ“木に還る”必要がないからです。亡き祖父、祖母、父そして母、あるいは亡き兄弟や親戚の姿を木に彫りこむことによって、故人の霊といつまでも暮らしているのです。それはまた、祖先の霊魂によって常に守られている、という宗教観にも繋がります。戦闘楯に刻まれた人物像は、部族戦争で出撃した際に、「亡き祖父や亡き父も一緒に戦ってくれている」という精神的礎(いしずえ)となります。サゴ椰子皿彫刻で言えば、「いつでも祖先と共に食事をしたい」がために、毎日使用するこの道具に故人の身内を彫りこんだのです。密林と共生しようとするアスマット人のなんともエコロジカルな生き様。サゴ椰子皿彫刻は、私たちに“森を守る”ことが“人間を守る”ことであることを教えてくれます。
写真の彫刻サイズは、高さが約109cm、最大幅が約44.5cm、最大奥行き約10cmで、重さは約2.8kg。1980年代に製作されたものです。
インドネシア文化宮GBI=Graha Budaya Indonesia)は、インドネシアの24時間ニューステレビ局『メトロTV』東京支局がプロデュースするインドネシア情報発信基地です。
インドネシア文化宮ブログサイト:http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/